【レポート】広告識別子に依存しないエンタメ広告運用~SNSの”キーワード”に着目した最適化〜 #CEDEC2022 #classmethod_game
毎年CEDECを楽しみにしている岡本です。
今年もCEDEC2022に参加してきました。 聴講したセッション広告識別子に依存しないエンタメ広告運用~SNSの"キーワード"に着目した最適化〜についてレポートします。
セッション概要
広告識別子やCookieに頼らない広告配信の最適化の検討。
DeNAではSNSなどプラットフォーマーから取得できるビッグデータ、特にユーザーが呟いたり検索している”キーワード”に着目して広告配信に活用し、1年間以上の検証を重ねて最適化精度の向上や運用工数の削減を実現した。
本講演では、我々の取り組みに関して実際の事例を紹介しつつ、明日から使えるノウハウを抽出して発表する。
スピーカー
小林 銀平 氏 株式会社ディー・エヌ・エー AI技術開発部
レポート
本講演を聞くと分かるようになること
- 個人情報保護の潮流がデジタル広告配信に与える影響の外観
- DeNAのマーケターとデータサイエンティストの連携体制
- 数千万円の利益改善をもたらした広告最適化の手法
アジェンダ
- 1.昨今のデジタル広告業界の変遷
- 2.SNSの"キーワード"に着目した広告配信の最適化の取り組み
- 2a.キーワードをの関連度を用いた最適化
- 2b.キーワードからユーザ属性を推測して最適化
- 2c.キーワードからサービスに関心のあるユーザを推定
- 2d.トレンドキーワードを用いたテキスト生成
- まとめ.~広告配信の最適化の未来~
1.昨今のデジタル広告業界の変遷
デジタル広告業界は、2020年以降、特にアプリ領域において大きな過渡期を迎えている
- ①デジタル広告における法規制の強化
- EU圏におけるGDPRの施行(2018年)
- USにおけるCCPAの施行(2020年)
- 日本における改正個人情報保護法の施行(2022年)
- ②法規制に呼応するApple/Googleの対応
- iOS端末で、広告識別子取得の際にユーザ同意が必須に(2021年)
- Googleが広告識別子の将来的な廃止を発表(2022年)
広告識別子の制限がデジタル広告運用に与える影響
- 同意を取得できなかったユーザ端末から広告識別子を取得できなくなると...
- 広告成果(インストール)の正確な計測が困難になる
- 広告経路ごとのROI評価が困難になる
- 広告配信の最適化が困難になる → 取り組みa,bへ
- リターゲティングが困難になる → 取り組みcへ
2.SNSの"キーワード"に着目した広告配信の最適化の取り組み
取り組み
- a.キーワードの関連度を用いた最適化(Twitter広告)
- 目的:配信最適化の促進・効率改善
- 新規ユーザー向け
- b.キーワードからユーザー属性を推測して最適化(Twitter広告)
- 目的:配信最適化の促進・効率改善
- 新規ユーザ向け
- c.キーワードからサービスに関心のあるユーザーを推定(Twitter広告)
- 目的:リターゲティングの強化
- 離脱ユーザー向け
- d.トレンドキーワードを用いたテキスト生成(Google広告)
- 配信量の伸長・工数削減
- 対象ユーザーの制限なし
前提条件
- Twitterでつぶやかれているキーワードを利用し、広告識別子による最適化の保管を行う(a.~c.)
- 対象となるのはTwitterアプリ広告
- 広告識別子の文脈と異なるが、Google広告における事例も紹介(d.)
- このスライドで登場するデータ・分析結果はTwitter社と連携し、規約・法律を遵守し利用しています
補足:Twitter広告の最適化手法(ターゲティング手法)※ a.~c. で利用
- キーワードを利用したターゲティング
- キーワードターゲティングを使って適切な瞬間・文脈で利用者にリーチ出来る。絵文字によるターゲティングも可能
- アカウント名を利用したターゲティング
- 特定アカウントをフォローしている利用者および似た利用者にリーチ出来る。
- 入れたキーワードに応じて、そのワードをつぶやいている人に広告が配信される
- 全然関係ない人(キーワードをつぶやいていない人)には配信されない
補足:広告配信の指標の考え方
以降のスライドで出てくる広告配信指標の見かたについて
- COST:配信金額
- CPIを維持している限りは、数値が大きいほどよい
- CPM:広告表示1000回あたりの配信金額
- 数値が小さいほど効率がよい
- CTVR(CTR*CVR):広告表示からインストールまでの転換率
- 数値が大きいほどよい
- CPI:インストール獲得単価
- 数値が小さいほどよい
a.キーワードの関連度を用いた最適化(Twitter広告)
仮説:統計的にサービス名と関連度が高いキーワードを導き出したい
- 従来のキーワードターゲティング手法
- サービス名、競合サービス名、登場するキャラクター名等を入力し「関連しそうなキーワード」を列挙する
- 課題
- 手動で列挙するキーワードを探すため、担当者の工数が必要
- 本当に関連度が高いかどうかの検証が出来ない
- キーワード選定に属人性が高く、サービスを横断した再現性が担保出来ない
- 分析手法
- 結果
- 個数削減や効率改善に繋がったものの、配信量に課題
- CPM、CTVR、CPIには改善がみられた
- COSTがとにかく出ない(100万お金を掛けて3万円分しか広告が配信されないような状態)
b.キーワードからユーザー属性を推測して最適化(Twitter広告)
仮説:人の性格や心理的傾向をキーワードに反映させることができないか?
- 取り組みaからの示唆
- CTVRが向上し、関連度が高まった
- 関連度が高すぎて広告配信対象が挟まり、配信量が担保できなかった可能性がある
- 関連度を維持しつつ、広告配信対象を拡大させる必要性がある
- 分析手法
- ポジティブ/ネガティブな人にターゲッティング
- 単語レベルのポジティブ/ネガティブ度辞書作成
- ツイートを数万件ランダムサンプルし、BERTの事前学習モデルで推論
- ツイートを形態素解析し、単語毎の平均ポジティブ度・ネガティブ度を計算
- IPに関連した単語へ限定
- IPを含むツイートを抽出し、形態素解析
- ポジティブ度順TOP1000をターゲッティングキーワードに利用
- 単語レベルのポジティブ/ネガティブ度辞書作成
- MBTI性格診断に基づいたターゲッティング
- Twitter上ではこの16種類の人格に分類する性格診断手法について、診断結果を共有するのが流行っている
- 性格毎によく使うキーワードが違う。これを用いてターゲティング
- ポジティブ/ネガティブな人にターゲッティング
- 結果
- 配信効率(CPI)を維持しながら、配信量を拡大することに成功
c.キーワードからサービスに関心のあるユーザーを推定
仮説:サービスに関心を持っているユーザーを"キーワード"で見つける
- 従来のリターゲティング手法
- アプリをインストールしたユーザの広告識別子をkeyにインストール済みユーザへ広告を配信
- リターゲティングの課題
- iOSにおいて広告識別子の取得量が大きく減少
- 広告識別子を用いたアプローチが難しくなった
- 分析手法
- アプリをプレイしているユーザーが仕様するキーワードをピックアップ
- 公式をフォローしているユーザ数千人のタイムラインを取得
- IP固有のキーワード=公式をフォローしているユーザの使用する単語vsランダムサンプルユーザの使用単語 の差分
- ゲームプレイ状況と温度感の関係
- ゲームを始めてから、ユーザがどのようにIP固有のワードを使わなくなっていくのか=興味関心が薄れていくかを分析
- ゲームのシェアURLを利用し、ゲームをプレイしている(いた)ユーザを数百件ピックアップ
- 温度感が高いユーザ=プレイしている時に関連ワードを多くつぶやく
- 温度感が低いユーザ=興味関心を失い関連ワードをつぶやかない
- を定性評価し、ユーザ毎にラベル付け
- ゲームのシェアURLを利用し、ゲームをプレイしている(いた)ユーザを数百件ピックアップ
- ゲームをプレイしてくれていたが、現在はあまり関連ワードをつぶやかないユーザへターゲッティング
- ゲームを始めてから、ユーザがどのようにIP固有のワードを使わなくなっていくのか=興味関心が薄れていくかを分析
- アプリをプレイしているユーザーが仕様するキーワードをピックアップ
- 結果(定量)
- いずれの指標についても広告識別子リストの精度には及ばなかった
- 結果(定性)
- 効果は良くなかったものの、広告識別子に頼らずにユーザーへアプローチ出来た点は非常にポジティブ
- 今後は課題点であるリストボリュームや関連度の精度を改善したい
DeNAマーケ担当のコメント「リターゲティング配信は広告識別子に強く依存しており、iOSの配信で大きな打撃を受けていました。プライバシーに遵守しつつサービスに関心のあるユーザーさんへアプローチできる突破口を作れたことを非常にポジティブに感じています」
d.トレンドキーワードを用いたテキスト生成(Google広告)
トレンドを入れ込んだテキストを自動生成で量産したい
- Googleアプリにおけるテキストの意義
- Googleアプリ広告においては入港する広告テキストがターゲティングのシグナルになる
- 安定した広告配信量を確保するためには、テキストの量を担保することが重要
- 課題
- 手動で広告テキストの作成量を担保することが難しい
- ターゲティングのシグナルとなるようなトレンドを加味したテキストを網羅して作成することが難しい
- 分析手法
- トレンドの取得
- Twitterのランダムサンプルからトレンドを作成
- 日本語のツイート1%のランダムサンプルを利用
- 直近の数日の単語の出現確率/全期間の単語の出現確率が大きいものをトレンドと定義
- 5月前半だと以下のような単語を得る事が出来る
- ゴールデンウィーク
- 梅雨
- 五月病
- Twitterのランダムサンプルからトレンドを作成
- トレンドの取得
- 結果(定量)
- トレンドを加味した影響か、他テキストよりも配信量を伸ばす事が出来た
- 一本当たりの出稿費用
- 自動生成テキスト>人が作ったテキスト
- 結果(定性)
- 担当者のテキスト制作本数の削減に貢献
- 自動生成ならではのテキストを作成でた
- 例:オフトゥンでも見れるアプリ、梅雨でぴえんな日は○○でリラックス
まとめ
広告配信尾最適化、配信量強化の文脈ではうまくキーワードを活用できたが、リターゲティングの代替としては課題の残る結果
- a.キーワードの関連度を用いた最適化(Twitter広告)
- 目的:配信最適化の促進・効率改善
- 結果:△
- 関連度は高まったが、金額的インパクトに欠ける
- b.キーワードからユーザー属性を推測して最適化(Twitter広告)※継続利用
- 目的:配信最適化の促進・効率改善
- 結果:◎
- 効率、配信量共に高い効果
- 検証後、ライブ配信ゲームなどのDeNA各サービスに展開FY21合計で利益数千万分の効率改善に繋がった※全体配信量の7割程度
- c.キーワードからサービスに関心のあるユーザーを推定(Twitter広告)
- 目的:リターゲティングの強化
- 結果:×
- 既存の広告識別子リストに及ばず
- d.トレンドキーワードを用いたテキスト生成(Google広告)※継続利用
- 目的:配信量の伸長・工数削減
- 結果:〇
- トレンドを拾いつつ、担当者工数を削減
- 担当者と連携し、定常的にトレンドキーワードを活用できる体制を整えている
検証結果を実務に最大限生かしながら、日々ブラッシュアップを続けている
広告配信の最適化の未来
- 今後も業界全体で、個人に紐づくデータの利用は規制される
- 個人に頼らないデータを使って、広告配信の最適化を検討していく必要がある
- 今後もDeNAのマーケティングにおいてはデータサイエンティストメンバーと密に連携を重ねながら、プライバシー自体のデータマーケティングの最先端を走れるよう尽力します
感想
IDFA(Identifier for Advertisers)いわゆる広告識別子の変化を認識した上で、率先して仮説検証に取り組み、しっかりと結果や今後の展開を考えておられて大変興味深いセッションでした。
広告識別子に代わるもの、というテーマもまた仕入れていきたいです。